抗マラリア薬と膠原病と新型コロナウイルス

大分県立病院ニュース

2020年08月31日

皆さんはマラリアという病気をご存知でしょうか

 ハマダラカという蚊に刺されると、マラリア原虫という単細胞生物が人間の体内に入り込み赤血球内で増殖し赤血球を破壊し高熱が出る病気で、熱帯地方に多く今現在も全世界で年間2億2千万人がマラリアにかかり、毎年約45万人が死亡しているといわれています。このマラリアに対する薬であるヒドロキシクロロキンが、なぜか全身性エリテマトーデスという膠原病に効果があり、さらには新型コロナウイルスに対する効果も期待されているのです。

 マラリアの薬の始まりは南米原産のキナという木の樹皮でした。キナは南米では非常にポピュラーな樹木でペルーの国旗にも描かれています。キナの樹皮は古くから原住民であるインディオの人たちの間で解熱薬として使用されていました。キナの樹皮からキニーネという薬が作られ、さらにその成分の研究からクロロキンという薬が合成されたのです。クロロキンという薬は年配の方はご存知と思いますが、戦後間もなく広く市販されていましたがクロロキン網膜症という視力低下の副作用があり発売中止になりました。現在使用されているヒドロキシクロロキンはクロロキンを改良したもので、副作用は100分の1になっています。

 このヒドロキシクロロキンは、海外ではリウマチや全身性エリテマトーデスに長年に渡って使用されてきました。しかし日本ではクロロキンの副作用の記憶が色濃くあり、使用が許可されていませんでした。ようやく2015年に厚生労働省より全身性エリテマトーデスに対する使用許可がおりて、その効果が良いことと副作用が少ないことから非常にたくさんの患者さんに使用されるようになりました。
 ヒドロキシクロロキンは特に皮膚症状、関節症状、全身倦怠感などの症状に非常に良く効きステロイド剤の減量に役立っています。副作用についても眼科の先生に定期的に見ていただいていれば安心して長期的に内服できる薬剤です。

 今年になって全世界の最重要問題となっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では治療薬の開発が急がれています。しかし全く新しい抗ウイルス薬開発にはあまりにも時間がかかりすぎるため、今まである薬で新型コロナウイルスに効く薬が探し求められています。様々な薬が試されている中で実験室内ではありますがヒドロキシクロロキンの抗新型コロナウイルス効果が高かったため今実際に一部の患者さんにも使用されています。

 最近ではトランプ大統領がTwitterでヒドロキシクロロキンの新型コロナウイルス感染症に対する効果を期待する発言をして有名になりました。実際にアメリカや中国、フランスではかなり使われています。これを書いている2020年5月初め現在では効いたという報告ももちろんありますが、まだその効果は未確定で残念ながら特効薬と言えるほどの効果はないという報告が多いようです。ヒドロキシクロロキンに限りませんが一刻も早く新型コロナウイルスに対する治療が開発されることを世界中が期待していると思います。それまでの間私達も現場で踏みとどまって戦っていこうと思っております。

(膠原病・リウマチ内科 部長 柴冨和貴)

※掲載内容の詳細は各科外来・各病棟でお尋ねください。

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